Mirai Hoshikawa
032024research

ロボット化細胞培養装置

哺乳類細胞の自動培養に向けた研究開発

個人制作大学卒業研究
ロボット化細胞培養装置

課題

細胞治療には大量の細胞が必要。手作業の培養は容器の出し入れで環境変動・コンタミネーション・作業者ごとのばらつきが生じる。

アプローチ

CO₂インキュベーター内と同等の環境を保ったまま、培地交換・顕微鏡観察・環境モニタリングを自動化するロボット化装置。

成果

容器を取り出さず培養を継続。手動培養と比べ細胞の生存率・増殖率の向上を確認(学士の卒業研究)。

概要

線維症は臓器に慢性的な炎症や傷害が加わり、生体の修復と損傷が繰り返されることで、最終的に細胞外マトリックスが過剰に産出され臓器の線維化に至る症状である。 これらの疾患に対して、生きた細胞を患者に移植する細胞治療の研究開発が進められているが、細胞治療では大量の細胞が必要であり、全ての培養操作を人手で行うことには限界がある。

加えて、培地交換のために CO₂ インキュベーターから培養容器を取り出す行為は、温度・CO₂濃度・pH の変動を引き起こし、細胞に負荷をかけ生存率を低下させる。 本研究では、CO₂ インキュベーター内と同等の環境を保ったまま、哺乳類細胞の培養・観察・培地交換を自動で行うロボット化細胞培養装置を提案・開発し、人による細胞培養と同等以上の培養が可能であることを性能検証試験により確認した。

システム構成

開発した装置は、培地の追加・除去を担う 培地輸送ユニット、CO₂インキュベータと同様の環境を維持しつつ顕微鏡観察を可能とする CO₂インキュベーションユニット、培養過程を計測する 培養環境モニタリングユニット の3要素で構成される。

倒立顕微鏡 Nikon Eclipse TS100 にカメラ Canon EOS 7D を取り付け、観察した細胞の画像を時系列で取得できる。冷蔵庫 VS-430 (VERSOS) は未使用培地の保存に用いる。

Fig. 1 Developed robotized cell culture system
Fig. 1 Developed robotized cell culture system

培地輸送ユニット

Fig. 2 Media transport unit
Fig. 2 Media transport unit

培地交換は培養結果に直結する重要な操作で、マイクロピペット手作業では培地が細胞へ強い剪断応力を与えてしまう課題があった。

本ユニットでは、チューブポンプ(WPM2-P3EA-CP)に独自のアルゴリズムを実装し、輸送する液量と時間を指定することで流量を細かく制御できる構成とした。新鮮培地の追加、廃液の除去、グルコース/乳酸センサによる代謝計測、CO₂コンテナへの加湿水補給の4動作を1台で実行する。冷却された培地を直接細胞へ流すと温度差で負荷が生じるため、シリコンチューブを CO₂コンテナ内に通して温度差を低減する設計とした。

CO₂インキュベーションユニット

CO₂コンテナ内の環境(37 °C・CO₂ 5 %・湿度 95 %)を維持したまま細胞を観察可能とした。 容器は FDM 方式の 3D プリンタで製作し、断面観察用に透明アクリル板を接着、保温のため断熱材で全体を覆う構成。

温度は環境センサ(BME280)と CO₂センサ(SprintIR®-W 20%)で計測し、ヒータープレートで 37 °C ±0.25 を制御。湿度は 90.5 % を下回ると噴霧コンポーネントで霧状の水を散布する仕組みで、結露しにくい状態で湿度を保つ。

Fig. 5 Component placement inside the CO₂ container
Fig. 5 Component placement inside the CO₂ container

培養環境モニタリングユニット

Fig. 9 Glucose / Lactate real-time monitoring
Fig. 9 Glucose / Lactate real-time monitoring

培養過程の計測のため、CO₂センサ・環境センサ(温度・湿度・大気圧)・グルコース/乳酸センサ(B.LV5 Jobst Technologies)のデータを PC に記録し、Slack API による定期通知と異常時アラートを実装。

リアルタイムに細胞代謝活動を観測でき、培地交換のタイミング判断や異常検知の自動化への基盤として機能する。

Fig. 8 Temperature / Humidity / CO₂ Slack notification
Fig. 8 Temperature / Humidity / CO₂ Slack notification
Fig. 9 Glucose / Lactate real-time chart
Fig. 9 Glucose / Lactate real-time chart

性能検証試験

本システムを用いた哺乳類細胞の培養と、システムを使用しない手動培養を比較した。培養期間は5日間、培地交換は3日目に実施。1日ごとに細胞数と LIVE/DEAD 染色(Calcein AM / Ethidium)による生存率を計測した。

細胞培養の様子
細胞培養の様子
Table 2. Survival rate (3 trials)
Table 2. Survival rate (3 trials)

結果

3回の試験において、開発システムを用いた場合に 細胞生存率の向上 および 増殖率の向上 が確認された。試行 2 と試行 3 では統計的有意差が認められた(p < 0.05、Holm 法による多重比較補正)。

考察

生存率向上の要因として、培地交換時の流体せん断応力の低減(マイクロピペットによる急激な培地添加と比較)、および CO₂・温度環境の変動回避 が考えられる。 今後の課題として、1台あたり同時培養できるディッシュ数の拡張、培地交換タイミングを代謝指標から自動最適化する画像処理システムの統合、線維芽細胞増殖因子などの成長因子発現解析が挙げられる。

01

制作体制

個人制作(筑波大学 学士卒業研究)

02

使用ツール

ArduinoPython3D Printer (FDM)SolidWorksKiCADSlack API