Kaleid Perspective
覗いた一瞬を、他者と分かち合う
着想
万華鏡の像は美しいが「一回性」ゆえに、良い瞬間を保持して他者と共有することが難しい。
アプローチ
像の変化に振動・音響・光を同期させ、覗く期待状態のなかで価値ある一瞬を捉えて保存・共有できるデジタル万華鏡。
成果
映像生成と記録・フィードバックを2ユニットに分離。覗く行為を中断させず、像の保存と投影・DMX照明による空間共有を両立。
作品概要
万華鏡は、鏡と素材と光の相互作用によって多重対称性をもつ抽象的な像を生み出す視覚装置である。観察者が筒を回し、傾け、覗き込むことで、像は連続的かつ偶然的に変化していく。その魅力は、完全な対称性を保ちながらも同一の像が二度と現れない一回性にある。
しかしこの一回性は、気に入った「良い柄」を保持・記録・共有することを困難にする。少し筒を動かすだけで像は崩れ、その状態のまま他者へ手渡すことはほぼ不可能だ。万華鏡体験は極めて主観的で個人的なものにとどまり、鑑賞者が「どの瞬間を価値あるものと感じたか」は外からは捉えられない。
本作はこの像の他者共有と、「覗く」という行為がもたらす期待状態に着目した。視野を意図的に制限する「覗く」という行為は、わずかな変化や転換点を相対的に強調する。そこへ振動・音響・光という非視覚的なフィードバックを重ねることで没入感を高め、偶然的に変化する像のなかから価値ある一瞬を捉え、他者と分かち合えるデジタル万華鏡を構築した。

体験のしくみ ── 覗く・回す・分かち合う
従来の万華鏡がもつ「回す」「覗く」という操作様式をできる限り保持することを重視した。鑑賞者は筒状の筐体を覗き込み、物理的なダイヤルを回して像を変化させる。
回転量が一定値を超えると描画モードが切り替わり、連続的な変化のなかに視覚的に明確な変化点が生まれる。この瞬間にだけ、振動・音・光が同期して提示され、像の「区切り」を多感覚で知覚させる。覗く姿勢を崩さずに押せる側面のスイッチで、気に入った像をその場で画像として保存でき、後から他者と共有できる。

連続的に揺らぐ視覚変化のなかで、特定の瞬間にのみ感覚刺激を集中させることで、その一瞬がより強く印象づき記憶に残る。鑑賞者は覗く行為を中断することなく、視覚変化とその感覚的な手がかりに没入できる。
振動・音響・光のフィードバック
像の状態が切り替わる瞬間に、複数の感覚チャネルを同期させて提示する。
- 音響: DFPlayer Mini で短い効果音を再生し、状態遷移を聴覚的に知らせる
- 触覚(振動): 振動スピーカーと振動アクチュエータにより、像が切り替わる瞬間に短いパルスを与え、手のなかで「区切り」を感じさせる
- 光: 覗いた像を空間へ拡張するため、TouchDesigner で生成した対称映像を投影し、DMX 照明で周囲を演出。個人の覗き体験を、その場にいる他者とも共有できる場へ広げる
これらは描画モードが切り替わった瞬間にのみ発生するよう制御し、連続的な映像変化とは明確に区別される。視覚だけでなく複数の感覚が同時に変化を捉えることで、偶然の一瞬が「価値ある瞬間」として立ち上がる。
機構・システム構成
映像生成と記録・フィードバックを物理的に分離した2ユニット構成とした点が特徴である。覗く行為を妨げないシンプルな操作体系を保ちながら、安定した記録動作を両立する。
- 視覚生成・操作ユニット(M5Dial): 円形ディスプレイとロータリーエンコーダを一体化したデバイス。万華鏡の筒形状・回転操作との親和性が高い。複数の粒子描画アルゴリズム(Random / Radial / Spiral)で対称的な抽象映像をリアルタイム生成し、ダイヤル操作で連続変化させる
- 制御・記録ユニット(M5Stack CoreS3): ダイヤルから送られる状態遷移イベントを受信し、音・振動の提示と万華鏡像の記録を担当。保存画像は SD カードに記録され、Wi-Fi 経由の HTTP サーバから PC へ転送・閲覧できる
- 両ユニットは UART 通信で接続し、ダイヤル操作で発生した状態遷移イベントのみをやり取りする。筐体は Fusion 360 で設計し3Dプリントで製作、回路は KiCAD で設計した
映像生成(描画)と記録・フィードバックの処理を分けることで両者が干渉せず、覗く行為を中断させない万華鏡システムを実現している。
制作体制
個人制作